ys10's diary

読み読み書き書き。

就活は怖くない

 

内定童貞 (星海社新書)

内定童貞 (星海社新書)

 

  本日こちら読了しました。僕自身就職活動中の身で、タイトルになんとなく惹かれるものを感じて読んでみたのですが、ちょっとした衝撃に打たれて我に返るようなような読後感でした。

 

 著者の中川淳一郎氏曰く、門外漢であるからこそ、業界のしがらみなくより生々しい現場について言及できる、「焼き畑農場」的な立ち位置の本であるという。たしかに、面接官の本音の部分は声に出して読むのすら憚られるような内容もあって、よく出版できたな。。。と思ってしまう文言とかもあるのだけれど、綺麗ごとだらけの啓発本よりかは遥かに信用できる内容だと思う。実際、疲れ切った就活生が求めているのはこういう語気の強い本なのかもしれない。

 

 昨今の就職活動の非合理性、企業側と学生間で起こるやりとりの不自然さやぎこちなさ、そこから生まれる悪夢に喝を入れ、揶揄したうえで、悩める就活生達へ道しるべを示してくれてます。歯に衣着せぬ物言いで、耳が痛くなるような内容ではあるけれど、今就活が迷走している学生は読むべきだと思う。就職戦線の渦中で前後不覚に陥る学生に、ある俯瞰的な視点を授けてくれる一つの処方箋のような本だと感じた。

 

就活の神格化

 本来、就職活動は辛いものでもないし、苦しいものでもない。ところが、近年の企業と学生を取り巻く異様な空気感が、就職活動を殺伐としたもののように錯覚させている。この本で全章を通して主張しているのは、”そもそも就職活動なんて大したことないし、就職に身構える必要なんてない”ということ。実際、肩に力の入った未内定の学生と、すでにいくつか内定をとった学生の飄々とした態度の差に顕著に表れるのはそういったところだそうだ。

 

企業が求めるもの

 よっぽどの大企業でない限り、面接官が学生に求めているのは大した内容ではない。内定を左右するのは、おおよそこんなところである。

  1. なんとなく社風にあっている。
  2. なんとなく会社に貢献してくれそう。
  3. なんとなく楽しんで仕事をしてくれそう。
  4. なんとなく将来の期待感を感じる。
  5. どうみても優秀。

一部の優秀な学生は5に該当するけれど、大多数の学生の判断基準が1~4となんとも曖昧である。そもそも企業はその時点での学生の能力に期待はしておらず、優秀かどうかも考えていない。要は、学生のキャラクターが会社に合っているか、話していて楽しいか、何かをなしてくれそうな期待を感じた時に学生に魅力を感じるのである。

 

面接での落とし穴

 自分をアピールすることも大事ではあるけど、面接はあくまでコミュニケーションの場であることを忘れてはいけない。手間暇かけて用意した自己PRが必ずしも役に立つとは限らないし、問いかけに対してきちんと答えられなければ本末転倒である。そもそも、あからさまに綺麗ごとで固めた自己PRなんて胡散臭さのかたまりであるから、面接官はほとんど聞いていなかったりする。本当に聞きたいのはもっと本音の部分だし、面接官と楽しくコミュニケーションをとれるなら、なにも凝り固まった表現を使う必要もないのである。自然体で、相手が聞きたいことに答え、その中でさり気なくアピールできるのが理想的である。

 

面接官は味方

 内定童貞に見られるのが、面接官を敵対視してしまうこと。人事は学生を落とそう、ふるいにかけようとしているのではない。忙しい時間を割いてまで、これからともに働いていく仕事仲間を探しに来ているのだ。少しでも引っかかるところがある学生にはもっと興味深い一面を見せてほしいし、獲得したい学生に対しては味方同然なのである。自分たちが想像している以上に、企業側は学生たちに歩み寄って考えているし、自分達の良いところを無理にでも探そうとしている。そう考えたら、面接時に不要な緊張感に囚われなくて済むのではないだろうか。

 

内定は誰にでも取れる

 勘違いしがちだけれど、優秀=内定とは限らない。群を抜いて優秀な学生に関しては言えると思うけど、内定が下りたほとんどの学生は、会社との相性が認められたからといってよい。志望する職種、業種を絞りすぎなければ、どこか自分と”合う”会社が見つかるはずである。このあたりを理解しないと、自分に合わないところばかり受け、どこにもひっかからず、人格を否定された気分になり自信喪失してしまうといったことになりかねない。世の大半の人たちは正社員として働いているのだから、優秀でないといけないという考えは取り払おう。

 

就職はあくまで”通過点”

 まるで人生を左右する一大事かのように就活に臨む学生もいるが、仮にそれで希望通りの会社に就けたとして、そのまま順風満帆に人生が進むとは限らない。何が起こるかわからないのが人生である。大企業に就職したものの、自分の理想とかけ離れるあまり、3年で離職してしまう人も少なくない。逆に、まったく行きたくなかった会社でやりがいを見出す人もいるし、会社を転々として、結果的に目標としていた会社に配属されるなんてこともある。そして、社会人になっていくらでも考えや価値観は変わり、以前の自分からは思いもよらぬ方向に進んだりするものである。これからの事なんて本当に分からないのだけど、分からないからこそ楽しいし、人生に味が出る。そんな大きな流れの中、就職なんてのはもはや大した問題でない。あくまで通過点であり、気をもむ必要もない。ただ、やるからには目標を高く持って、肩の力を抜いていこうぐらいの心持ちでいいのである。

 

 僕自身就活に対して苦しい思いをしつつ、何か腑に落ちない不自然さと、宗教的なまでの就活への神格化に言葉にできないモヤモヤがあったのだけれど、それを見事に言語化し、無遠慮な物言いで本質を突いてくれ、胸のつっかえがとれたような清々しい気分になりました。今まさに苦しんでいる人にとっては”劇薬”的な本だと思う。また、就活を無事終えた人、現社会人の人にも、自分の就職活動と照らし合わせて色々思いを馳せるいい機会を与えてくれるかもしれない。